リウマチ治療において、生物学的製剤は非常に効果が高く、また比較的安全な薬剤です。しかしその導入にあたっては、特に結核に関して注意をする必要があります。
今回は結核と生物学的製剤について説明いたします。
結核とは
結核は結核菌を原因とし、肺や背骨など全身に発症しうる慢性の感染症です。感染経路は空気感染なので非常に他者から伝染しやすいといえます。
今なお全世界で18億人が感染していると言われ、新規には1年間に1000万人が発症していると推定されます。
その多くは発展途上国であり、栄養や衛生など社会インフラの安定性が結核の感染発症に影響を与えていると考えられます。
しかし、日本においても新規発症患者は増えており、最近も若い男性芸能人の感染が世間をわかせたことは記憶に新しいと思います。
結核の症状
病状の進展につれて、咳や血痰、喀血や胸痛などの症状が出現します。重症例では呼吸不全をきたすことがあります。
また、結核は肺以外にも背骨(脊椎カリエス)や腸(結核性腹膜炎)、頭(結核性髄膜炎)や腎臓(腎結核)といった合併症を引き起こすこともあります。
そして、生物製剤使用下での結核は、こういった肺外結核を引き起こすことが多いとされています。
結核は冬眠する!?
結核は感染してもすぐに症状が出ることはあまりありません。感染のみで一生発症しない方もいらっしゃいます。
結核は体の中の奥深くで冬眠状態となり、多くは免疫力の低下などを契機に発症します。
生物学的製剤と結核
生物製剤の中でもTNF-α阻害薬(レミケード、エンブレル、ヒュミラ、シンポニー、シムジアなど)と言われるタイプの製剤が、結核の発症に大きく関与しています。
人間の体は、結核菌が入ってくるとこのTNF-αというサイトカインを放出します。このTNF-αが肉芽腫という肉のカプセルの様なものを形成し結核菌を包み込みます。そうすることによって結核菌を閉じ込めてしまい、冬眠状態にさせるのです。
しかし、リウマチ患者さんはこのTNF-αが体の中で過剰に産生されており、これが原因でリウマチを発症・増悪させます。
レミケードなどの生物製剤はこのTNF-αを抑えることによってリウマチの炎症を抑えているのです。
リウマチ治療でTNF-αを抑えると、結核菌が冬眠から目覚めてしまうことがあるので、生物製剤を使用するときは結核の感染がないかどうかを厳重に確認する必要があります。
詳しくは生物学的製剤についてをご覧ください
生物学的製剤を使用する前にしっかりと結核のチェックを
リウマチ患者さんだけでなく、関節症性乾癬や潰瘍性大腸炎の患者さんなどすべての生物学的製剤を使用する患者さんは、必ず以下の項目をしっかりとチェックし体の中に結核が潜んでいないか確認しましょう。
問診
① 家族に結核はいるか?
② 結核患者さんと接触したことがあるか?
③ BCGを接種したか?
④ 以前長引く咳や、なかなか治らない発熱などの経験などはないか?
⑤ 療養所に長期間入所し、化学療法を受けたことはないか?
採血
QFT(クォンティフェロン)やT-SPOTなど
ツベルクリン反応
以前は生物学的製剤を使用する前には必須の検査でした。
しかし、BCGの影響を受けたり、また高齢者では反応が十分に出ないこともあるため最近は採血や画像診断のほうを重視する傾向となっております。
画像診断
胸部レントゲンや胸部CT
もし結核菌が潜んでいる可能性があるならば
これから生物製剤を使用としている方で、上記のスクリーニングを行った結果結核菌が潜んでいる可能性があった場合です。(活動性の結核を有する場合にはもちろん絶対禁忌です)
この場合、抗結核薬イソニアジト(INH、イスコチン)を生物学的製剤を投与する3週間前から予防内服することが勧められています。
また、投与後も6か月~9か月は、このイスコチンを継続で内服することも大切です。
ガイドラインでは6か月内服が終わった段階で一旦中止を検討してもよいとされていますが、中にはこのイスコチン内服中止後に結核が発症した報告があり注意が必要です。
詳しくはリウマチ治療、生物学的製剤を導入する前に気をつけることをご覧ください。
専門医からの一言
生物学的製剤の治療によってリウマチの治療は飛躍的に進歩しました。しかし、使用する際には特に結核や肝炎などの感染症に注意し、安全に使用する必要があります。
医師は生物製剤使用についてのリスク・注意点をしっかりと把握し検査や予防投与を行うなどして合併症を未然に防ぐ必要があります。
また患者さんも、自身で使用される薬剤に関してしっかりとリスクを把握し、主治医と二人三脚でリウマチ治療を行っていただければと思います。